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SARA WAKUI -Four Elements- Live @ COTTON CLUB ライブレポート

  • 3 時間前
  • 読了時間: 5分

「はあ。すべての瞬間が、幸せ」

ステージの上で、和久井沙良はそんなふうに言った。

4月20日、COTTON CLUB。和久井沙良はステージに出てきた瞬間から、なんだか「嬉しくて楽しくて仕方がない」といった感じで笑顔を浮かべていたし、約70分のステージの間、ずっと楽しそうだった。演奏をしながら、堪えきれずに爆笑してしまっているように見える場面が何度もあった。彼女は同じステージで同じ楽曲を奏でているはずの4人がまったく違う人間であることが面白くて面白くてたまらないという雰囲気だったし、「今・ここ」に巻き起こるすべての一瞬があまりにも尊いのだと、全身全霊で噛みしめているようだった。「すべての瞬間が、幸せ」と言える。たとえ人生のあらゆるときにそう思うことが難しくても、あるひとつの夜に、そう言葉にできる。それ自体が、何にも代えがたい和久井沙良の才能である。



この日は「Sara Wakui -Four Elements-」と題されたライブで、和久井沙良(Pf,Key)、イシイトモキ(G)、高橋佳輝(B)、上原俊亮(Ds)によるカルテット編成でのライブだった。18時スタートの1st stageと20時30分スタートの2nd stageの2部制で開催され、私は1st stageに足を運び、ブラッドオレンジジュースを飲みながらライブを楽しんだ。



ライブの始まりを飾ったのは、和久井の1stアルバム『Time Won't Stop』の1曲目でもある“tietie”。この日のライブで和久井に「何本、手があるのか?」と紹介されていた上原の見事なドラムで演奏は始まり、まずはグランドピアノに向き合った和久井を始め、4人のアンサンブルは激しくダイナミックに波打つ。目を瞑れば本当に手が6本くらいあるように感じるだろう上原の激しさと繊細さを共存させたドラム、走りながら朗々と歌う大男のような存在感のある高橋のベース、小声で話していたかと思えば凶暴に吠えてみせるイシイのギター、そして、獲物に照準を合わせたネコ科の動物のような感じでピアノに向き合う和久井は、飛びかかった先で獲物の肉を食らう……のではなく、飛びかかった先で彼女オリジナルのダンスを舞い踊るようにピアノを奏でた。



イシイ、高橋、上原の3人は、演奏しながら時折「なにをしでかすんだろう?」という感じで和久井を見る。和久井もまた時折、いかにも面白がっているようにニヤニヤしながら他の人のプレイを見ている。そうやって視線が行き交うときに4人が何を感じ、考えているのかは私にはわからないけれど、そこに喜びがあることは、演奏から伝わってくる。「七転び八起き!」という“tietie”のキメフレーズも和久井とイシイで見事にキマって、キマッたあとに和久井は、へへっと、ほのかに笑った。



3曲目に披露された“Beat Birds”では和久井はグランドピアノからキーボードに楽器を変えて、浮遊感のあるサウンドを生み出した。続く“Deformare”は、ピアノを弾く和久井と上原のデュオ編成で披露され、とても躍動感のあるコミュニケーションが生まれていた。MCを挟んで、2月にリリースされた和久井のボーカル曲を集めたEP『utas』の収録曲をメインに、歌もの楽曲が続く。



まず披露されたEPの最後に収録の楽曲“冬の中”から、和久井の歌声があまりに素晴らしくて、胸がいっぱいになって涙が出そうになってしまった。インタビューでは「歌に対しては苦手意識があった」と語っていたが、その話が「まさか」と思えるくらいに、心の底、いや、存在の底から歌を歌う人なのだと感じた。むしろ歌うことを「難しい」と思える人だからこそ、こんなにも美しい歌が歌えるのだろう。そして、ピアノを弾きながら歌う和久井に寄り添うイシイ、上原、高橋の演奏の細やかさと温かさ。イシイと上原によるコーラスもまた人間のぬくもりがあって、感動的だった。



さらに “joso”、EPには収録されていなかった楽曲“こそばゆい”、そして“howa”が、歌ものゾーンでは演奏された。『utas』は和久井がほとんどひとりで作り上げた宅録的な作品だったが、こうして歌心あるプレイヤーたちとのバンドセットになることによって、和久井の歌はより解放的に響く。4人それぞれがそれぞれの豪快さと寂しさを持っていて、楽曲毎に様々な表情を見せるバンドの演奏は、歌ものだからといって伴奏に徹する、というようなものではなく、歌もの曲でもインスト曲と同様、ベッドルームとハイウェイと草原と宇宙と胸の内を瞬時に往復するような無限の音楽世界を見せてくれるし、その中で、和久井の歌もまた大らかに響き渡る。



ライブは“Vernal”~“Little Cycle”の超強烈なセッション、そして、“Mile in the green”で本編が締め括られた。“Mile in the green”は、和久井が自らのプロジェクトを始めた2022年に初めて作った楽曲であり、2022年3月にCOTTON CLUBで初めてのリーダーライブを開催した際にも披露した楽曲だという。和久井は「あれから4年経って、いろんな経験をしてきて、また違った景色が今は見えていて。でも、あのときの景色も鮮明に覚えています。その積み重ねが、楽しい人生だなあと思います」と告げて、“Mile in the green”を演奏した。“Mile in the green”は「心模様」そのもののような楽曲だ。広大な世界を前にして、可能性の雄大さを前にして、不安を前にして、未知なる未来を前にして、佇んでいるひとりの人間の心模様。和久井沙良の心は、ずっとここにあるのかもしれない。生きることに慣れるなんてはずもなく、世界はいつも新しく、人はいつも他者であり、孤独はきっと消えることがない。それでも和久井沙良には、「すべての瞬間が、幸せ」と言う準備ができている。だから彼女は、新しい世界に飛び込んでいく。



アンコールでは『utas』収録のチャーミングなポップソング“幽霊になっても美しい”が披露された。観客たちの手拍子も重なり、皆でこの夜の幸福を分かち合う。私も和久井の真似をして言ってみる。「すべての瞬間が、幸せ」。本当に、そんな夜だった。





文:天野史彬

写真:垂水佳奈

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